イントロダクション
海に囲まれた島国、日本。海岸沿いの街並みは美しく、多くの人々を魅了します。しかし、その美しい風景の裏側には、静かに進行する深刻な問題が潜んでいます。それが塩害です。
橋や道路、トンネルなどのインフラが塩害によって損傷すると、安全性低下や通行止めなどの問題が発生します。実際、日本の多くの地域では、塩害によるインフラの老朽化が進んでおり、早急な対策が必要とされています。
海岸地域に存在する多種多様な構造物や工業施設において、塩害は単にインフラに限定される問題ではなく、より広範な影響を及ぼしています。
塩害は、私たち一人ひとりに関係する問題です。このブログでは、塩害の現状、メカニズム、および防食塗装を用いた対策に焦点を当て、樹脂選択と塗膜条件に関する情報を明確に解説します。
このブログを通して、塩害への理解を深め、対策への意識を高めていくことができれば幸いです。
塩害とは?
塩害とは、塩分を含む海水や潮風によって、コンクリートや鉄筋などの基材が劣化することを指します。
一見すると目に見えないこの問題は、日本の社会基盤を支える重要な構造物に深刻な損傷を与え、私たちの生活に大きな影響を与えます。
塩害の原因と影響
金属の腐食は、酸素と水によって引き起こされる電気化学的な反応です。しかし、塩分が存在する海沿いの環境では、さらに深刻な腐食が起こります。これが塩害と呼ばれる現象です。
塩害による腐食メカニズム
海水には、塩化ナトリウムをはじめとする様々な塩類が含まれています。これらの塩類は、金属表面に電解質溶液を形成し、金属イオンの溶解を促進します。
具体的には、以下のメカニズムによって金属腐食が促進されます。
- 塩化物イオンによる陰極反応の促進:
- 塩化物イオンは、金属表面の酸化還元反応を促進し、金属イオンの溶解を加速させます。
- 酸素濃差電池の形成:
- 塩分濃度差によって、金属表面に酸素濃差電池が形成され、腐食電流が発生します。
- 保護膜の破壊:
- 塩化物イオンは、金属表面の保護膜を破壊し、金属を腐食しやすい状態にします。
塩害対策の重要性
塩害対策は、海岸沿いの地域だけでなく、内陸部でも重要です。近年は、飛沫塩害の影響で内陸部でも塩害による腐食被害が増加しています。そのため、塩害リスクのある地域では、重防蝕塗装などの適切な塩害対策を講じることが重要です。
塩害対策防蝕塗装の基本
通常の防蝕塗装では、塩害による腐食を十分に抑制できない場合があります。
塩害環境で使用される金属には、より高い防蝕性能を持つ重防蝕塗装が必要となります。
防蝕塗装の仕組み
防蝕塗装は、主に以下の3つのメカニズムによって金属を保護します。
- 物理的遮断: 塗膜が金属表面を覆い、腐食環境(酸素や水分など)との接触を遮断します。
- 電気化学的保護: 塗膜が金属表面を保護膜で腐食電流を抑制し、金属の腐食を防止します。
- 犠牲防食: 塗膜に含まれる亜鉛などの金属が腐食し、基材となる金属を保護します。
重防蝕塗装に必要な性能
- 高い密着性: 塩分や水分が塗膜内に浸入するのを防ぎます。
- 高い耐塩性: 塩化物イオンによる腐食を抑制します。
- 高い耐薬品性: 海水に含まれる様々な化学物質に対して抵抗力があります。
- 高い耐候性: 紫外線や風雨などの厳しい環境条件にも耐えられます。
重防蝕塗装の塗膜
塗膜の厚み
- 塩害地域では、強い潮風によるブラスト効果によって塗膜が徐々に減肉します。
- 塗膜が厚ければ厚いほど、減肉に耐える時間が長くなり、耐用年数が延びます。
塗膜の材質
- 塩害対策に適した塗膜は、耐塩性、耐水性、耐薬品性に優れている必要があります。
- 摩耗に強い材質を選ぶことで、ブラスト効果による減肉を抑えることができます。
具体的なアドバイス
- 塩害地域では、一般的に 150μm 以上の厚さの塗膜が推奨されています。
- 使用環境や予算に応じて、最適な塗膜の厚みと材質を選択する必要があります。
- 耐塩性、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性に優れた塗料を選ぶことで、より効果的な塩害対策が可能となります。
大型構造物の塩害対策塗装
溶剤型塗料を用いた重防蝕塗装
溶剤系の重防蝕塗装は、液状の溶剤系塗料を複数回塗り重ねることで、厚膜形成と多重層効果による優れた塩害対策を実現する塗装方法です。ハケやローラーだけでなく、塗装機による吹付け塗装にも対応できるため、大型構造物や現地での塗装にも適しており、最も一般的な塩害対策塗装として広く用いられています。
多重層効果による厚膜効果
多重層効果による厚膜効果とは、複数の塗膜を重ねることで、単一の厚い塗膜よりも高い防蝕性能を得られる効果のことを指します。これは、以下の2つの効果によって実現されます。
1. バリア効果の向上
複数の塗膜を重ねることで、塩分や水分などの浸透経路をより複雑化し、浸透速度を遅らせることができます。
2. 保護膜の強化
複数の塗膜が一体化することで、より強固な保護膜を形成し、物理的な摩擦や摩耗による損傷から金属表面を保護することができます。
溶剤系重防食塗装の工程
- 素地調整: 塗装前に、金属表面の汚れや錆、塩分などを徹底的に除去し、塗料が密着しやすい状態にします。
- プライマー: 金属表面にプライマーを塗布し、塗膜の密着性を向上させます。
- 中塗り: 必要に応じて、中塗り塗料を塗布し、塗膜の厚みを増します。
- 上塗り: 仕上げとして、上塗り塗料を塗布し、防蝕効果と美観を向上させます。
溶剤系重防蝕塗装は、高い防蝕性能、汎用性、施工性、経済性といった利点を持ち、大型構造物や現地での塗装に適していることから、最も一般的な塩害対策塗装として広く用いられています。
接続部品や小物・金物類の塩害対策塗装
工場塗装による接続部品・小物・金物類の塩害対策
接続部品や小物・金物類は、塩害環境に置かれると、腐食によって機能低下や破損を引き起こします。工場塗装は、こうした部品類を塩害から守るための効果的な対策として、以下の利点を活かして広く用いられています。
工場塗装の利点
- 高品質な塗膜形成:
- 管理された環境で塗装を行うため、均一で高品質な塗膜形成が可能です。
- 入り組んだ形状にも対応:
- ドブ漬けや静電塗装といった方法を用いることで、入り組んだ形状や複雑な形状にも確実に塗装できます。
- 量産に適している:
- 塗装ラインを構築することで、大量の部品を効率的に塗装できます。
主な塗装方法
- ドブ漬け塗装:
- 部品を塗料に浸漬することで、全体を均一に塗装する方法です。
- 静電塗装:
- 部品に電荷を帯電させ、帯電した塗料を付着させる方法です。入り組んだ形状にも塗装できます。
- その他の塗装方法:
- エアブラシ塗装、ローラー塗装など、部品の形状や数量に応じて最適な方法を選択します。
工場塗装は、接続部品や小物・金物類の塩害対策として、高品質な塗膜形成、複雑な形状への対応、量産への適性といった利点を持ち、効率的で効果的な対策を実現します。
小物部品や金物の塩害対策に飽和ポリエステル粉体塗装
海岸地域や温泉地帯など、塩害が発生しやすい環境で使用される小物部品や金物は、腐食による劣化が大きな課題です。塩害対策として、様々な方法が検討されますが、その中でも飽和ポリエステル粉体塗装は、優れた耐久性と耐塩害性を持ち、長期的な防食効果を発揮する有効な手段として注目されています。
飽和ポリエステル粉体塗装とは?
飽和ポリエステル粉体塗装は、熱可塑性樹脂である飽和ポリエステル樹脂を主成分とする粉体塗料を用いた塗装方法です。従来の溶剤系塗料と異なり、有機溶剤を一切含まない環境に優しい塗装技術として近年普及しています。
主な特徴
- 高い耐久性:
- 従来の溶剤系塗料よりも硬度が高く、摩耗や傷に強い
- 優れた耐塩害性:
- 塩分による腐食に非常に強い
- 耐候性:
- 紫外線や風雨による劣化に強い
- 環境負荷低減:
- 有機溶剤を含まないため、環境への負荷が少ない
- 施工性:
- 粉体塗装は、塗料の飛散や垂れが少なく、作業性に優れている
- 厚膜形成:
- 塗着効率が良く、一度に厚膜形成が可能です。
- 量産性:
- 連続作業が可能で、量産対応が可能です。
小物部品や金物への適用
飽和ポリエステル粉体塗装は、様々な形状の金属製品に適用できます。特に、以下の点において優位性を発揮します。
- 複雑形状: 複雑な形状の部品にも、均一な塗膜を形成できる
- 精密部品: 高温での焼付けが不要なため、精密部品にも使用できる:
飽和ポリエステル粉体塗装のメリット
- 長期的な防食効果:
- 優れた耐久性と耐塩害性により、長期的な防食効果を発揮
- ライフサイクルコストの低減:
- 長寿命化により、塗り替え頻度を減らせる
- 環境への配慮:
- 有機溶剤を含まないため、環境負荷が少ない
- 高い施工性:
- 作業性に優れ、短時間で施工できる
飽和ポリエステル粉体塗装は、塩害対策に有効な塗装方法です。高い耐久性、耐塩害性、環境への配慮など、多くのメリットを持ちます。
ドブ漬け溶融亜鉛メッキ
ドブ漬け溶融亜鉛メッキとは
ドブ漬け溶融亜鉛メッキとは、鋼材を高温で溶かした亜鉛に浸漬することで、表面に亜鉛皮膜を形成する防食処理方法です。ドブ漬けは、小物部品や金物などの複雑形状な物体でも、均一な防食処理を実現することが可能です。
特徴
- 高い耐久性: 他の防食方法と比較して、非常に高い耐久性を誇ります。適切な処理を行えば、数十年もの間、腐食から鋼材を守ることができます。
- 優れた耐塩害性: 塩分による腐食にも非常に強い抵抗力を持っています。海岸地域や温泉地帯など、塩害が懸念される環境でも安心して使用できます。
- 密着性の高い皮膜: ドブ漬けによって形成される亜鉛皮膜は、鋼材と密着性が高く、剥がれにくいのが特徴です。
- 複雑な形状にも対応: 溶液に浸漬するため、複雑な形状の鋼材にも均一な皮膜を形成できます。
- 環境負荷低減: 近年は、従来の溶剤系ではなく、環境負荷の少ない水性溶剤を用いたドブ漬け溶融亜鉛メッキも普及しています。
メリット
- 高い防食効果: 長期間、鋼材を腐食から守ることができる
- 幅広い用途: 様々な形状の鋼材に適用できる
- 環境負荷低減: 水性溶剤を用いることで、環境への影響を抑えられる
- 犠牲防蝕:メッキ皮膜に傷があっても、卑金属が優先的に腐食するため、素地金属を保護し続ける
- 扱いやすさ:多少乱暴に扱っても塗膜が壊れない頑丈な表面です。
ドブ漬け溶融亜鉛メッキと電気亜鉛メッキの違い
ドブ漬け溶融亜鉛メッキと電気亜鉛メッキは、どちらも亜鉛メッキですが、処理方法が異なります。
- ドブ漬け溶融亜鉛メッキ: 高温で溶かした亜鉛に鋼材を浸漬する
- 電気亜鉛メッキ: 電解液に鋼材を浸し、電流を流して亜鉛皮膜を形成する
ドブ漬け溶融亜鉛メッキは、電気亜鉛メッキよりも厚い皮膜を形成でき、高い耐久性と耐塩害性を持ちます。
溶融亜鉛メッキと粉体塗装の多重防蝕仕様
溶融亜鉛メッキと飽和ポリエステル粉体塗装を組み合わせる多重防蝕は、優れた防食効果と耐久性を発揮する表面処理技術として注目されています。それぞれの長所を活かすことで、単独の処理よりも長期的な防食を実現できます。
関連記事:
多重防蝕のメリット
- それぞれの長所を活かし、相乗効果で防食効果を向上
- 非常に高い耐久性と耐塩害性を実現
- 長寿命化によるライフサイクルコストの低減
- 環境への配慮
4. 多重防蝕のデメリット
- 溶融亜鉛メッキと飽和ポリエステル粉体塗装の両方の工程が必要
- 単独処理よりもコストが高くなる
溶融亜鉛メッキと飽和ポリエステル粉体塗装の多重防蝕は、長期的な防食が求められる鋼材に最適な処理方法です。デメリットも理解した上で、用途や目的に合った防食方法を選択することが重要です。
塩害に負けない!小物部品・金物の重防食塗装「アルズコート」
海岸地域や温泉地帯など、塩害が気になる場所で使われる小物部品や金物は、サビや腐食によって劣化しやすいため、定期的なメンテナンスが必要です。
(株)RSテックでは、塩害対策の重防食塗装として、飽和ポリエステル粉体塗装「アルズコート」をご提供しています。
アルズコートは、従来の塗装よりも高い耐久性と耐塩害性を持ち、長期間にわたって金属を保護します。
アルズコートの特長
- 優れた耐久性: 従来の塗装よりも2倍以上の長持ち
- 高い耐塩害性: 海岸地域や温泉地帯でも安心
- 環境負荷低減: 有機溶剤を含まない、環境に優しい塗装
- 美観性: 美しい仕上がり
- 様々な形状に対応: 複雑な形状にも均一な塗装が可能
アルズコートは、以下のような小物部品や金物におすすめです。
まとめ
塩害は、特に海岸地域や冬季に融雪剤を使用する地域の建物や構造物にとって深刻な問題です。この問題に対処するためには、適切な塗装技術の選択と施工が重要です。耐腐食性に優れた塗料の適切な選択、正確な表面処理、そして定期的なメンテナンスによって、塩害から構造物を効果的に保護することが可能です。
塩害対策で、お困りの方は、ぜひ(株)RSテックにご相談ください。
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